[2014.10.06]
故・安藤祥治前会長 「ありし日の対談」
― 感謝の気持ちを “人生の土台” に ―
故・安藤祥治前会長 副会長・高橋勝成プロ
※ この対談は2013年12月3日に行われました。
「今の自分があるのは大学時代の経験があったからこそ。ゴルフ部のおかげです」
人柄が滲み出る穏やかな笑顔で語るのは、OB会副会長の高橋勝成プロ(昭和48年卒)。
大学時代のリーグ戦で磨かれた粘り強いゴルフで数々のビッグタイトルを獲得。“ジャンボキラー”“マッチプレーの鬼”と呼ばれて久しい同氏も
、今や日本のゴルフ界を牽引する存在として、シニアツアーの活性化、そしてゴルフ界の将来を見据えたジュニア育成活動への取り組みなど、使命感を胸に精力的な活動を続ける。その根底にあるのは“感謝の念”―。
恒例企画の第2弾は、そんな高橋プロを迎えての対談と相成ったが、この収録からわずか1ヶ月後、年明けの慌ただしさも覚めやらぬ1月10日に安藤会長は帰らぬ人に。
よもや大病を患っていたとは微塵も感じられない様子で、意気揚々と対談に臨む姿が伺える。
現役時代に苦楽を共にした者同士、一献傾けながら束の間の思い出話に花が咲いた。
■ 必要とされる場所があるのはありがたいこと
安藤さん: | 本日はお忙しいところありがとうございます。シニア競技でのご活躍はもちろん、やはりお人柄といいますか、テレビ番組にも出演されていたり多方面でご活躍されていますよね。観ていて本当にうれしいですよ。 |
高橋プロ: |
ありがとうございます。呼んでいただけるのが大変ありがたいです。シニアとしてまだこうして競技を続けられるのは、本当に皆様に感謝の気持ちでいっぱいです。 |
安藤さん: | 往年のプロがみんな出ているし、ギャラリーからも人気があるようですね。 |
高橋プロ: |
おかげさまで年間2万人くらいの来場者があります。最近では金子君や東君とか日大出身の選手も入ってきましたし、みんなカリカリしていなくて本当に仲がいいんですよ。レギュラー時代に大喧嘩していた連中ばかりなのに(笑) |
安藤さん: | だいたい年間で何試合出場しているんですか? |
高橋プロ: |
賞金ランキング対象が10試合、ランキング対象外が7試合、その他オープン競技など入れると22~3試合ですね。8月からは殆ど休みがとれないほど過密です。 |
安藤さん: | それまではトレーニングをやるんですか? |
高橋プロ: |
やりたい気持ちはありますけど、もう無理をすれば必ず故障になります。だから、まずは“トレーニングができる身体づくり”ですね。自分たちの仕事は歩けなくなったら終わりですから、一日に7~8kmをしっかり歩けること。でもカートを見るとすぐ乗りたくなりますけどね!(笑) |
安藤さん: | それにしてもずいぶん勝ってますよね? いつの間にかグランドシニアにも勝っているし。 |
高橋プロ: |
いつの間にかそんな歳になってしまったんですね(笑)でも、そういう試合を作っていただいて、この歳になっても必要とされる場所があるのは大事だな、と思います。それだけに、これからは社会貢献をしながら試合数を増やしていくべきだろうなと思いますね。たとえば賞金の一部をお返しするとか、ジュニアの育成をやってみたりとか。 |
■ 勝つために覚えたマッチプレー
安藤さん: | 高橋プロといえば、日本のゴルフ史に残る名勝負、1987年の日本プロゴルフマッチプレー選手権決勝。“マッチプレーの鬼・高橋勝成”を世に知らしめた、尾崎将司プロとの8時間にわたる雨中の激闘は未だに忘れられないでしょう? |
高橋プロ: |
あれは大学のリーグ戦でマッチプレーを経験したからこそできた事です。“リーグ戦で負けてはいけない、絶対に勝たなければいけない”という伝統がありましたから。監督も口には出さないですけど、「行け!」って送り出されると“勝たなきゃいけない!”という考えが自然に湧いてきましたからね。ゴルフ部のおかげですよ。 |
安藤さん: | 相手は、あのジャンボ尾崎プロ。どんな作戦だったんですか? |
高橋プロ: |
相手の失敗を狙っていても勝てないし、ましてジャンボさんですから、全ホールでバーディーを獲ってくると思っていました。だから“どうやればバーディーを取れるか”を考えながらやっていたら、あのような結果になったんです。 |
安藤さん: | 尾崎プロも、また当時は絶好調で強かったからね! |
高橋プロ: |
そうですね。だからなおさらこちらは負けても当然で、ドライバーの飛距離が全然違いますから持つクラブも全く参考になりませんし、逆に自分と同じような力加減の相手だったら勝てなかったかもしれません。そしてあれは僕が勝ったというより、ジャンボさんが最後に珍しくミスをしたんです。1.5メートルくらいのを外して。初めて見ました、「あ、ジャンボがこんなに痺れるんだ」って。 |
安藤さん: | マッチプレーは大学時代から得意だったんですか? |
高橋プロ: |
いえ、得意ではありませんでした。勝つために覚えたんです。間の取り方や相手との駆け引き、勝ち方、すべてマッチプレーでゴルフを覚えました。 |
■ 辛いトレーニングを経験したからこそ、これまでやってこれた
安藤さん: | 学生時代の苦労話というか、思い出に残るエピソードはありますか? |
高橋プロ: |
多摩川トレーニングの馬跳びですかね(笑)ガス橋まで走ってクタクタですから跳べないんですよ。上を跳ぶ人の体重が支えきれなくて脳天から倒れたり、跳べなくなったら即正座。だけど、あの辛さがすごく身になっていますね。そういう経験をさせてもらったことがよかったです。 |
安藤さん: | でも、体力はあった方だよね? |
高橋プロ: |
いや、走れなかったですし、みんなが「頑張れ!」って励ましてくれました。あの挫折感があるからやってこれたんです。トレーニングが終わったあとはクラブが握れないほどでしたけど、それもいい訓練だったんですよ。あるとき、前日に雨が降っていたので「明日は中止だろう」って同級生の家で遅くまでお酒を飲んでいたら、翌朝カラッと晴れちゃって! 全員遅刻でうさぎ跳びでした(笑) |
安藤さん: | いい思い出だね(笑)
|
高橋プロ: |
いつだったか、お寺にも泊まりましたよね。そういう体験も大きなトレーニングになりましたね。 |
安藤さん: | あったねぇ、カエルの鳴き声がうるさくて寝られなかったよ(笑) |
高橋プロ: |
今の世の中は何でも“あれをやってはいけない、これをやってはいけない”でしょ?とても貧弱な子ができると思うんです。もちろん、怪我なくそこまでできたのは親にも感謝をしなければいけません。でも、その握れない手でクラブを握ってグリップの大切さを理解するとか、限界まであと一歩のところを経験することは大切だと思います。それが“いじめた、いじめられた”ということではなくて、すごく記憶に残っていますし、先輩に引っ張ってもらいながら、あらためて先輩に対して敬意を抱いたりとか。 |
安藤さん: | 僕と高橋プロとは4年と1年の関係だったし、結構いろんなところへ一緒に行った思い出があるけど、あのときはどこへ行ってもケンカ腰だったよね(笑) |
高橋プロ: |
そうでしたね。若いから無我夢中でいってましたけど、“どこが紳士のスポーツなの?”っていうくらい、ケンカ腰でしたね(笑) |
安藤さん: | 監督が“ヘラヘラするな!”って叩き込んでいたからね。揉め事があれば「俺がなんとかするから」って。 |
高橋プロ: |
時代が変われば変わるほど、そのすごさを感じますね。やはり“負けてはならない”というのが根底にありましたから。そういう伝統は受け継いでほしいですね。 |
■ 周りの人たちに助けられてきた
安藤さん: | 同級生もみんな頑張ってますね! |
高橋プロ: |
はい。みんな頑張ってOB会のお手伝いしているのを見ると、胸が締め付けられる想いです。阪神大震災のときに炊き出しをやりながら、「もうゴルフなんて、しばらくは絶対できない」と思っていたんですけど、茨城で練習場をやっている同期の白井君(白井秀治さん)が「こっちはなんともないから出て来いよ」って連絡をくれたんです。彼には学生時代から大変お世話になって、卒業してからも一年に何度かお邪魔しながらレッスンをやらせてもらったり、マネージャーの秀島君(秀島雅男さん)とは卒業できなくて一緒に教務課で正座させられたり(笑)本当に彼らがいてくれなかったら卒業もできなかったし、プロゴルファーにもなれませんでした。 |
安藤さん: | いい仲間だよね。ゴルフ部に入っていてよかったね。 |
高橋プロ: |
困ったとき、最後にどうしたらいいだろう? っていうとき、自分一人で乗り切っているようですけど、人に助けられているんですよね。その価値観というか、有り難みが若いときはわからないんですよ。 |
安藤さん: | 自分のことに夢中になってるからね。 |
高橋プロ: |
僕もアドバイザーという形でいろんなゴルフ場のお手伝いにも行っていますし、この歳になったら子供たちにスナッグゴルフを教えたり、亡くなった子供の意志を継いでいろいろやらなければいけない。そこでまた賛同してくれる人たちが集まってくれて……そうやって相乗効果でプラスになる生き方をしなければいけないと思います。人生みんな助けてくれる人ばかり、そういう人たちがいないと何もできません。 |
安藤さん: | でも、それはあなたの人徳だと思いますよ。あなたはものすごくそういった徳のあるゴルファーだという話をいろんなところで聞きます。お人柄がいいということです。 |
■ こどもたちの“知恵”を見たい
安藤さん: | 今、現役部員はおかげさまで約100名、日大系列の中・高校生を入れた交流戦をやっていることもあって、一般学生を含め入部が増えているんです。 |
高橋プロ: |
中・高校生は大事にした方がいいですね。練習したい学生がいればどんどん協力します。子供たちには僕を積極的に利用してもらいたいですね。 |
安藤さん: | ただ、今の子たちはプロになったはいいけど、その先どうしようって悩んでいるのも多いんだよね。 |
高橋プロ: |
確かに、ただ球を打っていればプロゴルファーとして通用する時代ではありません。お客様を呼ぶアイデアを出しながら、ゴルフ場のプラスになることを一緒に考えなければならない、つまり経営能力があること。「プロゴルファー」というのはゴルフ場の各部署をつなげる“接着剤”ですから、決して上から目線ではなく逆に自分たちが動くことで周りもそれにつれて動くものだと思います。 |
安藤さん: | マスター室の管理ができたり、コース管理や経営もできたりね。 |
高橋プロ: |
そうです。ゴルフが好きなら全て覚えようとするじゃないですか。芝の管理だって何だってできるはずです。わからなければ勉強をすればいいんですから。 |
安藤さん: | 和田監督も学生たちにはよく教えているんだけどね。 |
高橋プロ: |
それから本当に上手くなりたかったら、まずは練習場で一日朝から晩まで1000球以上打つこと、それを一年間続けてからコースです。球を打っている人間には敵いません。理屈抜きで球を打って自分で身体に覚えさせないと。それは道具が変わっても同じです。100球、200球だけではわかりませんよ。三食食べなくても夜中に起きて練習できる環境を作ってあげること。それから“知恵と応用”ですね。どんなに上手い子でも、一年間練習場だけにいさせると必ず文句が出てきます。「バンカー、パッティングが上達しないのはコースに行かないからだ」って。でもそこで知恵を出してどう補うかを見たいんですよ。練習グリーンもあるし、練習バンカーだってあるし、球は何時間でも何千発でも打てるんです。基礎をしっかり覚えてから応用、それを我慢できるかどうかでわかるんです。練習が大変とか、辛いとか言ってたら何をやってもダメです。 |
■ 感謝の気持ちを“人生の土台”に
高橋プロ: |
ジュニア育成のための大会のお話をいただいているんですが、大事なのは競技だけに専念するのではなく、子供たちにあいさつやゴルフ場の使い方をしっかりと適確に教えることも必要だと思います。競技に参加するための講習会ですね。 |
安藤さん: | 先日も国体で言われたのは、子供たちがあいさつをしないということ。自分のことに夢中で、ボールを探してあげてもお礼を言わない、と。 |
高橋プロ: |
地元のジュニアレッスン会に野球とゴルフ両方好きな子がいるんですが、あいさつのときに帽子を取らないので「野球のあいさつをやってごらん」って言うと帽子を取るんですね。「野球で覚えたいいことがあるんだから、ゴルフ場でもやってみようか!」って。時間はかかりますけど、そうやって子供たちに考えさせることが大事だと思います。 |
安藤さん: | そうだね。国体にたった3、4人連れて行くだけでも喉が枯れちゃって仕方ないんだもの。 「お前たち、ここであいさつしなきゃどこでするんだ?」って(笑) |
高橋プロ: |
そうなってきたのも、ここ10年~20年のことではなくて、40年~50年の間、おじいちゃん、おばあちゃん世代からの伏線できているのではないかと思います。だから自分たちがこれからやることは、50年、60年先を目指してやっていく覚悟が必要ですね。 |
安藤さん: | 最後に、現役の部員へ贈る一言をいただけますか? |
高橋プロ: |
やはり“感謝”ですね。すべてに感謝をすること。これが必ず人生の土台になると思います。一緒に悩んでくれたり、困ったときに助けてくれる仲間。すべてが繋がっているので大事にしてもらいたい。決して偶然できているわけではないと思います。 |
安藤さん: | 心身共に健康で大学まで行かせてもらえるなんて、恵まれているよね! |
高橋プロ: |
今の学生達は“学士様”というのを忘れているんじゃないかな。大学に入学できた喜びを噛みしめながら、卒業する努力はするべきです。諦めてほしくないです。それから、またいいゴルフ場でプレーをさせてもらって最高ですよね! 高校までとはレベルの違う“大人としてのゴルフ”を覚えられるじゃないですか。なんて贅沢なことをやらせてもらっていたんだろうって思います。この歳になってわかるんですけど、それがいつの間にか、自分の生きる土台になっているんです。 |
安藤さん: | 人の親にならないとわからないんだ(笑)わかったときに親はいないしさ…… |
高橋プロ: |
ゴルフ部の伝統は絶やしたくありませんし、恩返しをしたいと思っています。お手伝いできることがあれば、しっかりとやらせていただきます。 |
安藤さん: | よろしくお願いします。本日はお忙しい中、ありがとうございました。 |
(文・構成 江崎龍太/平成3年卒)